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一般社団法人建築よろず相談支援機構

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よろずWEB相談HEADLINE

No.1350 間地石積擁壁の将来の信頼性は?

 相談概要 [氏名] I.H.
[相談建物予定地] 兵庫県明石市
[職業] 会社員
[年齢] 50
[男性] on
[構造] 木造(在来工法)
[引渡し年月日] 西暦    年  月  日
[何階建て]
[延べ面積m2] 143
[延べ面積坪]
[工事請負金額] 3400
[設計監理料] 0
[様態] 建売り住宅
[施工者] 建設会社
[設計者を選んだのは] 自分では選んでいない。
[施工者名] D建設
[販売会社名] 株式会社A
[設計者名] D建設
 相談内容 現  象:

相手の意見:

相談内容:
新築建売物件の購入を目の前に控えており、擁壁の評価について判断材料を求めています。
家屋は気に入っており、他の擁壁以外の部分も概ね気に入っていますが、今後20〜30年先までも含めた擁壁のリスクが看過できない場合は、冷静に判断し購入を諦めるべきと考えています。判断の材料(着眼点)を提供願えないかと思い、相談をさせていただきました。

【擁壁に関する情報】
1.昭和40年代に造成された中規模開発造成地
2.雛壇になっており、上側と下側に各4m前後の擁壁。上側擁壁の所有権は上側宅地の所有。下側の擁壁は今回購入を検討している物件の所有。
3.自然石による間地石谷積(練積み)擁壁。擁壁に関する検査済証や図面等、客観的に状態を判断できる情報を仲介業者経由で求めているが、どうも難しい様子。建築業者弁によると、建築士が建築可能と判断し、建築確認申請もされているため、問題ないとのコメント。
4.土地は丘陵を切り崩して造成しており、埋めてはいない。(仲介業者情報)
5.水抜き穴あり。擁壁の下には側溝があり、適切に排水がされているように見える。また、擁壁に水がしみ出している・コケが生えている等は無いように見える。
5.地盤調査済。9ポイント調査し、支持基盤まで4mのポイントが2か所ある他は1〜2mで支持基盤に到達。
6.家屋は下側擁壁ぎりぎりまで建築しているが、34か所全てに4.25mの柱状改良を入れており、擁壁には建物の負荷はかからない設計。(地盤改良工 施工報告書入手
済)
7.隣には、築30〜40年にはなるだろうという3階建て鉄筋コンクリート造りのマン
ションが建っており、同じく下側擁壁の際まで建築している。阪神淡路大震災の際も特に崩落等なかった。

【相談させていただきたい事項】
将来、自身や家族に負の資産を残さない様、間地石積擁壁の性格を正しく理解し、且つ自身の家屋、および下側家屋に損害を与えるリスクを正しく理解したいと考えており、以下をお教えいただけないでしょうか。(一般論でも可)
1.間地石積擁壁は経年劣化するものなのか。
2.すでに築後50年近くが経過していますが、今後どのようなリスクが考えられるのか。
3.そのリスクが実際に起こり得る可能性の程度(難しい質問ですが・・・)
4.対策コスト。特に下側家屋に与える損害を食い止める対策。
5.購入前の現時点で、リスクを極力回避するために出来ること。

多少のリスクや、通常の状態であれば起こり得る可能性が極めて低いリスクに対しては、神経質になる必要がないと考えていますが、理解しておくべき事は正しく理解したく、お手数ですがお力添えをお願い致します。
 yorozuの感想 購入者側は「買い手」である点で強いように見えますが、実際は様々な重要な情報を理解できないまま、人生を左右する重要な判断を迫られる「弱者」の様に感じます。今回当HPを知れた事は、私にとってとてもありがたい事だと考えています。また、同じように悩まれている方の参考になれば、とても良い事ではないかと思います。
アドバイザー 
 山口 雅克 解説員の山口です

 相談させていただきたい事項とは異なりますが、土地の分譲に関して以下のことに注意が必要なので敢えて書きます。(一般論でなくありがちなこととして聞いてください。)

3:「建築士が建築可能と判断し、建築確認申請もされている」
その建築士がどのような情報を元に安全だと判断し確認申請図面に安全だと書き込んだのか、建築可能とするために甘い期待感で書く人がいない訳ではありませんので、疑問が残ります。

4:「土地は丘陵を切り崩して造成しており、埋めてはいない」
まず考えられません。造成工事のポイントは、いかに場外へ土を搬出しないで造成を行なうかのコスト第一で設計する訳ですから、埋めたところがないとは虚偽があると思ってもいいでしょう。
半分削って残りの半分に盛り度を行なうのです。山中の道路の造り方と同じです。

5:「地盤調査済。9ポイント調査し、支持基盤まで4 mのポイント
が2か所ある他は1〜2mで支持基盤に到達。」
通常は建物の四隅と中央の5カ所なので、外の4か所は石や擁壁の基礎に当ったかでそのポイントが設計に使えなかったということでしょう。タマにですが、擁壁の基礎に当ったのを固い地盤があると勘違いするものもいます。調査か所が多いので丁寧だとは思います。

特に気になるところだけ書きましたので相談事項に解説します。
1.「間地石積擁壁は経年劣化するものなのか。」施工状況次第。
2.3.「すでに築後50年近くが経過していますが、今 後どのようなリスクが考えられるのか。」地震や地下水位の変動、雨水経路で全く緩まないことはないが、その程度は未知。
4.「対策コスト」擁壁側の4m下部から上の地盤を固 化材で固める。
コスト的に現実的ではない。
5.「リスクを極力回避する」昔から人が住み続けた土地を探 すのが
良いと考えます。

阪神淡路の震災では、昔からあそこは家を建てるのに適していないと言われていた所の建物は倒壊した事例が多いです。考古学会と建築学会で被害建物と考古地図を重ねるとほぼ一定の条件の所に合致しています。
 コメンテーター 
大内 彰 相談したいこと、について順に。
1:間地石自体に経年変化はないと考えられ、その裏の地盤についても造成後40年程度経過しているのですでに落ち着いていると思われます。

2:周囲の地盤の状況に変化が生じると地下水の流れに変化が生じることがあるのでその影響が考えられます。また、地面にのる建物の重量が変化するとその下の地盤も影響を受けて変形する可能性があります。地面に載る建物の重量が変わると擁壁に掛かる力も変化するので擁壁の安全性も変化します。

3:わかりません。

4:擁壁に掛かる力を低減すれば擁壁の安全性が高まるので、柱状改良を施すのが有効と思います。コストは施工する量や施工条件によって変わりますが、少なくとも80万円以上はかかるのではないかと思います。

5:購入前の時点でできることは、周囲の敷地の状況を調査すること思います。実際に歩いて見ることや、ハザードマップで危険な地域に指定されていないか確認することなどでしょうか?

「擁壁に関する情報」の3について。間地石の擁壁が安全かどうかを正確に判断することは難しいです。施工状況や地盤の状況もわからないので判断材料が少ないためです。
確認申請書に「安全」だと書かれているのはそうしないと申請が通らないからということが強く影響していると思います。行政としては申請者が安全だと評価した書類を提出しているのでそれを担保として許可しています。建物本体の安全性の確認の方法については細かに決め、それに基づいて(またそれ以上に個人的な判断を含めて)審査していますが、擁壁については安全の確認方法は決められておらず、「安全」とした書類についての審査は行われません。

「埋土をしていない」「支持基盤の深さが違う」ことについて。
通常は傾斜地の場合半分は埋め戻しをすることが多いです。その埋土をしっかり締め固めながら施工すれば問題化することは少ないのです
がいい加減に埋め戻す事も多いので傾斜地の場合は注意が必要です
(ハンドオーガーなどの地盤調査によって埋土なのか地山なのか確認することができます)。直接基礎とする場合は支持層までの厚さと、基礎直下の地盤の固さによって不同沈下の可能性が変わるので注意が必要になります。
 事務局から 
  荻原 幸雄 相談者は冷静に購入を判断しようとしている点はすばらしいことだと思います。
多くの人が同じような新調査があれば「ババ」は掴まないのですが、現実は根拠のない理由で購入している人がほとんどです。

それくらいいい加減な判断で購入しているということで、紛争になることも多いのが擁壁です。

段差の敷地を購入することだけで、すでに平坦な敷地に比べて、リスクがあるということは承知しなければなりません。擁壁そのものが問題なくても、次にことはクリアーできないからです。
1)段差全体の崩壊が起きた場合は個別の擁壁の問題ではないことになり、予想を超える崩壊があり得る。
2)段差敷地は雪の時に交通困難になる場合がある。
3)大雨の時に地下水の流れが擁壁によりダムのような作用をすることがあり、水の出具合は考慮すること。
4)近隣の建設により地下水などが変わる可能性があり、永遠に一定とは限らない。
5)高齢化の中で斜路や階段のある敷地が将来の自分たちの欲する敷地なのか?

上記を承知で個別擁壁の判断があるということを理解しなければなりません。
しかし、現実の擁壁の判断は難しいのが現実です。それは次によります。
1)擁壁の形状などその当時の施工図や構造図などが残っていないことが多い。
2)どう施工されたのか不明である。(どこを、どのように掘削し、埋め土と盛り土の範囲が明確にならない。
3)地下水がどのように流れているのか?将来、どのようになるのか?予測がつかない。

以上から結論として
「擁壁の安全性の数量的根拠を評価できる材料がないので判断はできない。」となります。

しかし、何故、このような擁壁でも建築できるのでしょうか?
1)擁壁に力がかからないような設計をすれば問題はない。からです。
極論するとその擁壁を撤去しても建物が倒壊しないように設計すればよいということになります。
これはそのような設計をすれば問題は無いことになります。

しかし、上記でなく、「建築士が可能を判断」したことを確認期間に提出すれば
建築できるのも事実ですが、このような建築士の判断の根拠のない書面はあなたの命を軽視した判断なのでこんな建築士に命を預けてはいけません。実は多くのハウスメーカーは平気で「擁壁に亀裂などなく問題はない」と平気で判断しているバカ者が多く存在します。
営業を優先するとんでも建築士です。このような建築士にいいてください。「数値的根拠を示して欲しい」と返答できない筈です。よくわたしも不動産業者に「この擁壁の図面や構造計算書を提示しなさい」と伝えます。「ありません。」とか「みんな建っている」とか売ればようからいい加減な返事をします。なかには購入者にこっそり「大手ハウスメカーはみんな擁壁に問題ないとして建築していますよ。」ととんでもないことを言ったりしているようです。

擁壁について不動産業者の話は結局素人判断であることに注意してください。

行政も「建築士が可能を判断」すれば擁壁が崩壊しても建築士の責任で行政には責任を受けなくて済みます。要するに建築士の判断もいい加減で、行政や確認機関の責任もない。という世界なのです。

守るのはご自分の判断的確で建築設計であなたの命を守ってくれる建築士を探すことが擁壁のある敷地には欠かせないことだと最後に書かせて頂きます。
相談者お礼状 
 相談者お礼状 貴重なアドバイスありがとうございました。

戴いたアドバイスを踏まえると、柱状改良を34か所施していること等建設業者は良心的な会社であるとの感想を持ちました。今回のような特徴的な土地に最大限の配慮を施していると感じられます。

当物件には何故か相当惹かれていたこともあり、擁壁の安全性について建築士の客観的な判断根拠をなんとか引き出したいという思いが強く、仲介業者に何回か働きかけましたが、最終的に漠然としたコメントしか引き出せませんでした。
また、何度も現地に足を運び擁壁を中心に目視チェックをしましたが、実は右隣の擁壁との継ぎ目で当物件側が5mm程浮いていることや、擁壁の角度がかなり急で軽く中段が膨らんでいるように感じられることから、断腸の思いで当物件を見送り、他の候補物件を選びました。
下側が道交法上の道路にあたらない私道で、万が一トラブルが生じると民事になるであろうこと、及び今後自身が年老いていく程(=妻も含めトラブルに対処する能力が低まる程)逆にリスクが高まることも、当物件を諦めた理由になります。

コメントに書かれているように、「周囲の家も皆同じだから大丈夫」「今まで何もなかったから大丈夫」という説明を私も聞きました。私も危うくそのようなあいまいな理由で自分(および家族)の今後を大きく左右する選択をしそうになりました。
最終的には当HPの相談や情報により冷静に考えることができ、別の選択肢を選び(今週末引越し予定)、今では良かったのではないかと感じています。

是非今後重要な選択を迫られている方々には、自分の身は自分で守る=具体的に考えて客観的な情報をもって判断することを意識していただき、後になって苦労される方が一人でも少なくなって欲しいと思います。
そのためにも、今後も引き続き情報のご提供を宜しくお願い致します。

取り急ぎ、ご回答いただいた御礼と、当相談案件の顛末をご連絡致します。
ありがとうございました。
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