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一般社団法人建築よろず相談支援機構

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〒181-0001 東京都三鷹市井の頭3丁目12番11号

よろずWEB相談HEADLINE

No.1341 設計業務報酬の妥当性は?

 相談概要 [氏名] H
[相談内容] -
[居住住所] 広島県広島市
[職業] 会社員
[年齢] 40
[女性] on
[構造] 木造(在来工法)
[引渡し年月日] 西暦 年 月 日
[何階建て]
[延べ面積m2]
[延べ面積坪]
[工事請負金額] 2000
[設計監理料] 300
[様態] 注文建築
[施工者] −
[設計図面は何枚もらいましたか?]
[工事着工まで設計の打ち合わせは何回しましたか?] 11
[施工者名] 設計事務所
[販売会社名] 設計事務所
[設計者名] 設計事務所
 相談内容 現  象:
設計事務所と建築士業務委託を交わし、契約時に60万円支払いました。しかし、信用構築出来ず、基本設計完了前に契約解除になりました。20万を追加で請求され支払いましたが、不当利得に思え、県建築紛争センターや、地元の設計事務所等に相談に行きました。見解を聞いた所、20万位が妥当な業務報酬であり(成果品を見ても業務時間からみても)60万は返金もらうべきというお見立てをいただき、相手方を呼びだし指導面談していただいたが相手方は返金拒否し続けています。
明細提出を要求したところ、契約後業務時間103時間、契約前業務時間27時間として合計130時間×時給2500円×2として65万円(税別)の明細を出してきて10万円〜18万円程なら返金する、と相手方はなお主張し続けています。

相手の意見:
当方が「高い」という主張に対し、相手方は「これまでの顧客に示しがつかない、他の依頼物件を断っている、解約に当たり話し合いはついているから」と述べ、次に「契約時に納得していたのだから60万は返さない」と、「高く無い」証明は十分に行えておりません。支払い後から4ヶ月以上も経ってやっと明細を出してきたかと思えば、それは実費明細ではなく、ただの計算式を出してきました。
現在調停中。調停員も相手を説得してますが、全く相手方は妥協案にのってきません。もう裁判しかないと思っておりますが、裁判にいくとしても上記の質問について専門家皆様のご意見を参考程度で構いません。お聞かせ願います。

相談内容:
質問です。
(1)このような契約前の業務時間を計上するのは不当ではないでしょうか。
(2)実費の明細を要求したのに実費の明細報告をもらえません。(上の計算式のみです)このように実費の明細を出さないのは実費が少額すぎるからと推測できます。出せないのは裁判になっても非常に相手方が不利になるだけに思えますが。
(3)この時給2500円とは相場なのでしょうか。
先生皆様の見解ご教授お願い致します。

 yorozuの感想 建築業界は法の整備も契約書も建て主には不利に作られています。こちらが勉強するしかないなか、出会えてよかったです。引き続きお力おかしください。
アドバイザー 
 古賀 保彦 解説員の古賀です。

ご質問の番号に沿って解説します。

(1)このような契約前の業務時間を計上するのは不当ではないでしょうか。

建築設計の場合は、契約締結前迄に何度もプランニング作業を行ったりする場合がありますので、契約にそれ以前の作業報酬を含めるというのは、必ずしも不当とは言えないと思いますが、無用なトラブルにならないように、契約書の報酬内訳に、例えば、着手日は遡ってH○年○月○日〜と記載しておくべきだったのでしょうね。契約時には、まさか途中で解約になるとは思っていないでしょうから其処まで注意しないのが普通とは思いますが・・・。

(2)実費の明細を要求したのに実費の明細報告をもらえません。(上の計算式のみです)このように実費の明細を出さないのは実費が少額すぎるからと推測できます。出せないのは裁判になっても非常に相手方が不利になるだけに思えますが。

設計報酬については、人件費単価×作業時間数×経費率の式で算出する事があります。経費率とは事務所の家賃や福利厚生費その他、一般的な会社が運営していくために給料以外に必要な経費ですが、これを略算方式で人経費と同額とする(計2倍となる)のは普通だと思います。
なお、設計事務所によっては、図面枚数×単価や、施工面積×単価や工事費×報酬率で算出する場合もあります。つまり、算出方法については絶対基準というものがありませんので、方法自体を問題にしても仕方がなく、精算を目的とするのであれば、作業時間が妥当かどうかという事になる訳ですが、作業の成果品(図面等)の内容によってはその判定が客観的には難しい場合もでてきます。
例えば、その建物が技術的或いはデザイン的に難易度の高いものであれば、
図面1枚を仕上げる迄に、難易度の低い建物に比べて倍以上かかる場合も
考えられますが、その成果を判断するためには主観だけでなく複数の客観的な
立場からみてもらう必要もあると思います。
130時間÷8時間/日=16日ですから、打合せ11回分も含めて考えると、普通の難易度でもそれ位の作業時間はかかりそうですが、成果品をみての事ではありませんので何とも判断が難しいところですね。

(3)この時給2500円とは相場なのでしょうか。

人件費単価に年間の標準的な稼働時間数を掛けると所得税等の税引き前の年収相当額になります。
実際に図面を作成する時間の他に、実務以外に能力向上のための講習や研究も必要ですので、年間の稼働日数は200日程度と言われています。
2500円×8時間/日×200日/年=4,000,000円
この年収相当額が高いのか安いのかは、経験年数や能力、地域事情を鑑みて本人が判断し、それに応じる依頼者があって成り立つことですので、一律な相場という考えを当てはめるのは難しいですが、建築士の資格取得後数年を経て設計事務所として独立している方の単価とすれば随分安い金額だと思います。

調停中との事でありますし、ご相談者側からの言わば片方からの情報だけで良否を申し上げる訳にもいきませんので、何とも曖昧な解説になってしまいました。契約時はお互いに通じ合うものがあったのではと推察しますと、何とか穏便な解決を望む気持ちです。
 山口 雅克 解説員の山口です

これは調停中ですから、よろず相談でのメールによる助言は相談者の力添えになり難いと思います。
調停で思いを勝ち取るには有償で専門家に依頼するしかありません。
地元の設計事務所の方に調停に参加していただくのもひとつの方法です。

質問に関しては
(1)契約前であれ、ある程度の業務を求めて、納得した上の契約ではなかったのかと思います。
(2)実費が何を意味するのか分かりませんが、設計者は人件費以外にさまざまな
費用をかけて設計作業を行っています。単に思いついたことを絵にするだけでないことは、契約時に説明を受けていらっしゃると思います。設計監理契約の時に重要事項説明がなされていると思います。
(3)時給は技師Cで3275円+税が一級取得後3年超の建築士の目安ですから安くしてくれてると思います。
これは人件費ですから、これの1.6〜2.0倍くらいが経費込みの金額になるのが一般的です。
 大内 彰 解説員の大内です。

契約後の業務時間数がすくないことから契約してからあまり時間が経過していないと想像します。設計依頼してからあまり 時間が経っていないのに契約破棄に向かっているのは何かしら原因があって意思疎通ができなかったのだと思います。その辺りの説明が相談メールに書かれていないのは何故でしょうか。
設計者の成果品がどの程度のものなのかが分かりませんが、不動産の購入の場合などは手付金は通常は返金されないので今回の場合も返 金されなくても仕方が無いのではないかと思います。契約破棄になることで設計者は本来得るはずだった利益を損ねることになります。裁判になれ ば相手はそれを請求してくることも想像できます。裁判になると見返りに見合わない時間と精神的負担が生じると思います。どうしても相手を叩き のめさなければ気がすまないということであればとことこん争う事も選択肢だと思いますが、決して小さな金額ではありませんが授業料だと思っ て、次のステップに進まれた方がいいのではないかと思います。
 コメンテーター 
栗原 健一 私たちの建築士事務所の業務報酬については、国(国土交通省)がその基準となる計算方法を告示(平成21年告示第15号)として示しております。
示されているのは計算方法ですので結果としての報酬額は一定ではありません。

前向きな設計事務所では、依頼により業務を行う際はこの告示に基づいて明瞭な計算過程を示した見積書、内訳書、成果品リストを依頼者に示すようにしています。
設計事務所の団体ではこれらの書式を整備し、算定ソフトなどを会員へ提供しています。

また、契約書締結前には、報酬額や、業務の再委託先などを明示した「重要事項説明書」を依頼書に対し提出することを建築士法で定めています。

なお、「契約」とは契約書の締結のことではなく、依頼者が業務依頼の意思を示し、
受託者がそれを受け入れたときに成立します。
ただ、その内容について、後日見解の相違が出てくることが多いので、「契約書」もしくは「委託書」等の文書にし、両者で保存しておくことが多いのです。

ご質問について
(1)このような契約前の業務時間を計上するのは不当ではないでしょうか。

前述のように、「契約」は契約書締結時ではありませんので、口頭でもあなたが「お願いします」と言い、設計事務所が「はい」等度それを受けた時が契約時です。
よって、通常、契約前の業務というのはあまりありません。
しかし、のちのちのトラブルを避けるためには、この実質的な委託時にどのような内容と報酬で業務を行うのかの説明をしておくのが望ましいことです。

「計画案の提示までは無償で、計画案了承後行う作業分から費用が発生します。」
などと説明し、計画案了承後、明細をそえた見積書を提出し、納得の後、業務を
開始する方法などがあります。

(2)実費の明細を要求したのに実費の明細報告をもらえません。(上の計算式のみです)このように実費の明細を出さないのは実費が少額すぎるからと推測できます。出せないのは裁判になっても非常に相手方が不利になるだけに思えますが。

実費の明細作成・提示については、契約というのは両社の合意で形成されますから、契約時(依頼時)にそれを条件としなかったのなら、そのような形態での業務の仕方を受け入れたことになってしまう可能性があります。

「設計料の10%」などという大雑把な見積もりで詳細な内容を示さないまま業務を受託しても、本来の業務を誠実に行い依頼者の信頼も得て、最後まで問題なく業務を完遂してしまうこともあります。
仕事熱心な建築士は、「受託額に応じた仕事配分」にこだわらず、いいものを作ろうと実費を無視して納得いくまで設計を行ってしまうという「経営感覚」に乏しい建築士も多いと言えます。

よって、「実費の明細を出さないのは実費が少額すぎるから」との推測は、必ずしもあてはまならないかもしれません。

(3)この時給2500円とは相場なのでしょうか。

時給は、国土交通省の告示では人時間あたりの直接人件費単価にあたりますが、それぞれの事務所の実情によりが定めるものです。
これも依頼者が依頼時にあらかじめ承認すれば、いくらでも構わないことになります。

今回は、依頼時にそのような説明、取り決めがなかったようですが、そうだとすればそのことが問題と思われます。

2500円というのは、特に高額とは言えないものと思います。
この時間当たり人件費は、事務所の経費は含まない人件費単価で、ボーナスを含めた年俸を200日で割った人件費日額をさらに8時間で割ったことでも導き出せます。

仮に年俸が500万とすれば3100円程度となります。
2倍しているのは、経費分は人件費と同額としてよいという告示によっているものと推察します。
下記の「一般社団法人東京都建築士事務所協会」のホームページでは、設計料の算定例を掲載していますので、参考にしてください。
(この例では人件費時間単価を3250円としています)
http://www.taaf.or.jp/architect_office/04.html#P

今回は、契約時に報酬算定の内容(条件、計算方法、人件費、経費、成果物リスト)を事前に依頼者に示していないことが問題に発展したものと推察します。

建築士事務所の開設者に対して重要事項説明書の提出は建築士法で定められていますが、報酬算定方法を告示15号に従わなければならないとか、それを示さなければならないとかは法的に義務化されているわけではありません。
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前述の解説委員の回答にもありますように、調停中ですから、よろず相談でのメール
による助言はこの程度の内容となることをご理解ください。
 事務局から 
  荻原 幸雄 建築設計では依頼者とのコンセンサス造りが重要です。
これは、両者のタイプという相性的な要素も大きいと思います。
1)建築を芸術と理解している建築家は建築主が口を出すことを嫌がります。
2)建築は建築主の要望を叶えるだけのyes manである建築家。
3)この中間的な建築家。
と大きく分類できるでしょう。
このどこのタイプかによって信頼関係が構築できるか大きくことなりますので、ご自分をしることです。
1)全てお任せの建築主。全てはプロに任せる。素人は口をだすものではない。と考える建築主。
2)建築主の要望は全て叶えてくれた。
3)建築主にとって可もなく不可もなく。無難な落とし所。
では、どんな建築になるか?
1)考えもしない空間ができ、個性的。しかし、建築主が気が付かなかった不便がでる。
2)自分の要望は満たされる。しかし、建築主が気が付かなかった不便がでる。
3−1)ほどよい建築空間。両者が刺激しあい予想を超える空間になる。
3−2)魂の抜けた建築空間。両者が建前だけで、予想しないつまらない空間になる。
とさまざまな関係があります。

この中でも費用面では様々。
1−1)プロなので、驚くほどの設計料を提示する。
1−2)素敵な建築が設計できるならば、そこそこでも受けて実現したい。
2)建築の信念は捨てているので、慰謝料的な費用として、しっかりいただく。
3)内容により場当たり的設計料で人を見て決める。

まあ、ひとつの目安ですが、実際は個別で決め方は様々です。

さて、契約前の営業的業務は無償か否かは捉え方により違うと思います。契約書がなくても口頭で契約が成立はしますので、
契約していると理解した建築家は含めるでしょうし、まだ、サービスの範囲と理解している人は求めないでしょう。当り前な話ですが、このコンセンサスがとれるかとれないかで既に相性が悪かったと言えるでしょう。

裁判は費用面だけならば避けた方がよいです。弁護士費用、内容により数年、負担は大きいです。
今回の内容では裁判でなく話し合いで解決することです。

裁判をするにはこの建築家の社会的正義として許せない場合は戦うことをお勧めします。
相談者お礼状 
 相談者お礼状 丁寧なご回答有難うございました。且つ、調停中ということで先生方皆様にはアドバイスしにくかった中、心がこもったご回答、深く重ねて感謝申し上げます。
おかげさまで3回目の調停で相手方が調停員の妥協案にやっと応じてくれました。おかげで半分の40万返金で和解しました。
先生方皆様のおかげです。今回を機にもっと自分の目を肥やして家づくりしていきたいと思います。

ちなみにご質問いただいていた点にだけ回答しておきます。
・契約前プランニング作業については相手方は無料である、とおっしゃっておりました。よって、契約時間として計上してきた行為は明らかに不当です。このことについては調停員もおかしいと言っていました。
・契約破棄の理由について 当初業務報酬料は建物の15%と言っていたにも関わらず(300万)、契約直前になり建物面積算出法で計算すると400万になるからこれで契約してくれと突然言われた。何度もこれは変更なのかと確認するがこれが俺のやり方だと言われ納得は難しかったが契約してしまった。(これが当方の落ち度です)それから2ヶ月経ってやはりあの時は俺が悪かったと謝罪され再度契約し直してほしいと言われた。それで再度300万での再契約をした。この時点で信用が全くできなくなり(この2ヶ月間にも信用出来ない言動行動が多々あった)、解約となった。
よって、相手方に信用継続不可の非があり契約解除になっているので全額返還請求の調停を起こしました。

今回は契約時に解除の場合の報酬算定内容をお互い触れていなかったのが大きなミスでした。
先生がおっしゃるとおり「既に相性が悪かった」の一言だと思います。
本当は妥協せずもっと叩くこともできましたが乳飲み子をかかえここで和解を選びました。
お客側にとって本当不利な建物業界は本当もう恐ろしい世界です。
家づくりもこれでやめることにしました。当分はボロ屋暮らしでいこうと主人と話しています。
大きな人生で考えればやめてよかったのかもしれません。

先生方本当ありがとうございました。  
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