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一般社団法人建築よろず相談支援機構

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No. 1135 限界耐力計算は単なる経済設計か?

 相談概要 [氏名] UA
[相談内容] 分譲マンションの瑕疵
[相談建物所在地] 同上
[職業] 講師
[年齢] 42
[男性] on
[構造] 鉄筋コンクリート造(ラーメン構造)
[引渡し年月日] 西暦  2003  年 7 月  日
[公庫使用] on
[性能保証を使用] on
[何階建て] 14
[お住まいの階] 14
[延べ面積m2] 80
[延べ面積坪]
[工事請負金額] 3140
[様態] 分譲マンション
[施工者] 建設会社
[マンションの総戸数] 300戸以下
[施工者名] T
[販売会社名] M不動産
[設計者名] T
[監理者名] T
 相談内容 [現象]
3年ほど前に、本マンション購入にあたり相談に乗っていただき、購入いたした経緯がございます。その折には多くの専門家の方からご回答いただき本当にありがとうございました。
今回の相談はマンションの瑕疵に関してではありませんが、どうしても専門の方のご意見を伺いたくメール致しました。

先般の偽装マンション問題に関わる報道の中、60M以下のマンションに対する設計方法による耐震性能に関しダブルスタンダードとなっているとの話がありました。姉歯設計の偽装マンションが従来の許容応力度計算では耐震性が足りないにもかかわらず、2000年から採用された限界耐力計算ではOKとされた問題です。
わがマンションも限界耐力計算にて設計されました。

購入時の販売会社のパンフレット内に「本マンションは地震力を1.25倍としていませんが、応答解析により1.25倍と同等の耐力を有していると確認している」との文言があり、なぜ耐震等級が2等級ではないのか、と説明を求めました。その時の回答は、「設計方法は限界耐力計算。必要耐力に対し保有耐力は約1.25倍あるが、許容応力度計算とは異なり地震力が増幅する可能性があり、耐震等級2とするには再度計算しなければわからない」との事。それがきっかけで素人ながら調べました。

私が理解したのは、許容応力度計算はいわゆる剛設計で、地盤の考慮はせず、地震力に対し十分余裕をとり設計する方法。一方、限界耐力計算は、超高層の時刻暦応答解析の簡易版であり、地盤の情報を考慮した柔設計。私としては、場所によって異なる地盤を考慮した最新の設計方法であり、ある意味、許容応力度計算より優れている、と解釈しておりました。

ところが、ここ半年ほどの報道等によると、「限界耐力計算は単なる経済設計のためであり、断面も鉄筋も少なくでき、結果として従来より格段に脆弱な建物が、お上のお墨付きをもらい猛烈な勢いで建てられているとの懸念がある。」これは事実でしょうか。

近い将来大地震がおこるといわれているこの時期に。さらにJSCAから今年5月に限界耐力計算による設計時の注意項目がでました。わがマンションの設計に関しても、不安になってきたのです。

このマンションの構造計算書を、わからないながら読んだところ、追加検討一覧に「設計時に用いた告示1475号第1号のGs算定と比較して地盤が不明瞭な場合に用いられる第2号にても算定したが、結果地震力が約5割増大すると判明した」とありました。これは、略算法にくらべ、精算法の地震力は50%でしか計算されていないということでしょうか。JSCAの注意項目にもあり大変不安です。

販売会社に姉歯マンションのように、本マンションを逆に許容応力計算で再計算。また、JSCA注意項目に合致するかどうかの回答も要求するつもりです。
ぜひ、構造設計の専門の方のご意見をお聞かせください。

素人にもかかわらず、知ったような事を言うな、とのご批判もあると思います。しかし、一生の買い物が正しかったのか、それとも、知っておくべき弱点を持つ建物なのか、もしそうなら、何か対策すべきである、と思いご相談いたしました。

本当によろしくお願いいたします。
 yorozuの感想 購入に際にお世話になりました。自分としては、最大の買い物に、最大の注意を払いできうる限り調べました。が所詮素人で行き詰まったときに出会ったサイトです。これからも私のような庶民の味方でいて下さい。
アドバイザー 
大内 彰 解説員の大内です。

UAさんもかなり勉強されているようですね。
「Gsの値が告示1457号第7第1号と2号とでは計算結果が50%違っている」ということですが、これはどちらも「限界耐力計算」における係数の算定法であり「許容応力度計算」との比較ではありません。また、検討書では1号と2号の計算結果を比較しただけで、これによってどうしたのかは表現されていません。単純に、確認審査時に「比較せよ」と指導があっただけなのかもしれません。

許容応力度計算で足りているのかどうかを確認して欲しいという要求は基本的にはオプションになるのでその分の費用を請求される場合もありえます。販売会社側は違法なことはしていなければ許容応力度計算による証明をしなければならない義務はないと思われます。

また、JSCAの注意項目に合致しているかいないか、ということも義務ではないので合致していないからといって補強を要求したりはできないでしょう。納得できるような補強をしたい場合にはそのための費用をご自身で負担することになるでしょう。
 コメンテーター 
橋本 頼幸 コメンテーターの橋本です。

技術的な面は解説の大内さんの説明で十分だと思います。設計するという行為は、設計者の考えや思いなどを図面などに表現することですので設計者が異なれば当然結果も異なることになります。実は構造設計というのはその最たるもので、設計者の考え方によって、設計者の数だけ結果がわかれるものです。

また、建築は設計ができたら完璧かというと全くそうではありません。設計者の意図を間違いなく施工することがより大切です。つまり設計と施工が合致してはじめて目的の性能を持つ建物ができるといえます。

設計手法もとても大切なことですが、施工の精度が設計を反映しているかどうかも含めて対策を講じる必要があるでしょう。
 事務局から 
  荻原 幸雄  大内解説委員のとおり、追加検討の結果、どのように対処したか?が記されていませんのでなんとも答えられませんが、一般論として、1981年からの保有水平耐力計算法は信頼できる構造計算方式であり、実績も豊富です。しかし、構造手法も時代とともに向上し、より現実に近い手法が開発されました。
それが2000年からの限界耐力計算法であるのはご存知の通りです。

これは本来の地震時の加速度を考慮している点が現実の建物に起こる応力に近づいていることになります。
逆に言えばそれ以前の保有水平耐力計算法は安全率を附加したザックリ計算法というべきものです。
それを現実により近づけると安全率もそこまで見なくても解析できることになりました。
この安全率だけみると下がりましたが、より現実的になったということです。勿論、安全に安全を見ることは可能です。

原子力発電所の入力解析でマンションを設計したら大地震がきても何ら心配いらない建物も設計できると思います。
しかし、費用対効果としても購入した価格の2〜3倍にもなるでしょう。(柱も太いし、壁も床も厚い。だから同面積ならば価格は上昇しますね。)誤解があるのは性能設計に対応するために限界耐力計算法を編み出したので方向性としては間違いはないのでしょうが、以前のはそのままで、選択できるようにした点です。ダブルスタンダードと呼ばれてしまうのがこのところです。

さて、簡易法は安全率が高いのでほぼ保有水平耐力計算法と同じ結果がでますが、精算法は精度を高くしていることから安全率は少なくなっていますので、解析結果に差がでます。
簡易法だからといってあまり差が大きいのは簡易法としている意味がないのではないか?という個人的な疑問もあります。ただ、精算法を採用するには構造設計者の能力と経験が大きく作用しますので、構造設計者の確認をすることも大切なことだと思います。本来は各階、各時間ごとに解析する時刻歴応答解析が全ての建物の構造設計手法になることがよいのでしょうが、これらの設計ができるのもJSCAの会員でも50人に一人程度といわれております。

それほど、経験と知識が必要になります。現実的にはどうしても、多くの建設に対しての構造計算の妥当性を簡易な方法で模索しなければなりません。それが限界耐力計算法です。その中でも簡易法が必要だったという現実的な側面もあります。

いずれにしても計算が間違っていない限り、比較することはそれぞれの出発点が違うので困難なことではありますが、納得できる回答が得られるとよいですね。
相談者お礼状 
 相談者お礼状
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