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一般社団法人建築よろず相談支援機構

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No. 1117 「古い擁壁」の取扱いについて

 相談概要 [氏名] I.H
[相談内容] 建売住宅の瑕疵
[相談建物所在地] 神奈川県川崎市
[職業] 会社員
[年齢] 40
[男性] on
[構造] 木造(2X4工法)
[引渡し年月日] 西暦 2006年 9月
[公庫は使わない] on
[性能保証は使っていない] on
[何階建て] 2
[延べ面積m2] 131
[延べ面積坪]
[工事請負金額] 4380
[設計監理料] 0
[様態] 建売り住宅
[施工者] 地場大手ハウスメーカー
[設計者を選んだのは] 自分では選んでいない。
[監理者を選んだのは] 自分で選んでいない。
[確認申請書は本来建築主が出すと説明を?] 受けていない。
[確認申請の為の委任しましたか?] してない。
[確認申請書お持ちですか?] 無い。
[検査済証は有りますか?] 有る。
[設計図面は何枚もらいましたか?] 3
[工事着工まで設計の打ち合わせは何回しましたか?]
[施工者名] S社
[販売会社名] Pハウス
[設計者名]
[監理者名]
 相談内容 [現象]
はじめまして。
この度は、建売住宅における「古い擁壁」の取扱いについて、ご専門家のご意見を頂きたいと思い、本メールにてご相談させていただきます。
現在、建売住宅の購入(川崎市内)を検討しています。

立地は以下のような状況です。

1)S47年に住宅地として造成された100坪程度の宅地であり、元々RC造2階建ての建屋が宅地中央に立っていた。

2)今回は、上記RC造住宅を取り壊し、100坪の宅地を各33坪程度に3分割して、木造2階屋を3棟建てている。

3)宅地南面に直高H=約3.5mの間知ブロック積擁壁(勾配1:0.5)があり、雑木林に面している。 建屋南側壁はブロック肩より0.5m程度の位置である。
 但し、建屋基礎は、ブロック天端には直接載せてはいない。現在、ブロックは一部箇所での目地抜け、また、軽度なクラックが数箇所見られる。

4)宅地の北側、東側、西側は隣接する周辺宅地や、道路と同じ高さで造成されている。

5)今回の取引では、当然、擁壁も(ブロック基礎まで)土地面積として、購入・登記対象となる。

ご質問:

1)関東での大地震を想定した場合、築後35年の擁壁の直近に、家を建てたおり、居住安全性が心配である。 なお、擁壁自体は、建設当 時に、S47年6月10日第1号に基づく「検査済み」となっている。

2)世間一般的に、30〜40年前に造成された擁壁付き(高さもある程度高い)宅地に新築の家を建てる場合、 擁壁の健全性はどのようにチェックされているのかをご教示お願いしたい。
 35年ローン完済時には、擁壁自体は築後70年程度になってしまうので、中間時としての検査となる。

3)当方は、売主に対し、取引物件の重要な一部である擁壁について、以下のお願いをした。
 ・健全性の評価結果を資料としてつけて欲しい。
 ・目地抜け等の箇所は引き渡し前に補修して欲しい。
 ・建物の10年保証と同様に、擁壁についても「保証の対象」としていただきたい。

[業者の見解] 
これに対する売主の回答は以下の通りでした。
・健全性:S47年の検査結果を「正」とし、特に評価は行っていないし、評価資料は出せない。
・補修:立会で相互確認の上、対応する。
・擁壁保証:S47年検査結果に立脚しており、擁壁の保証は不可能。建屋自体は性能保証できるものであり、10年保証を付けているので、これ以上は無理。

[相談内容]

4)当方の見解:
 ・当方も新築された建築物が十分な強度を有し、支持地盤も地盤調査の結果、問題ない旨は承知。
 ・擁壁だけは建造後35年程度が経過しており、S47年に役所の認可を受けているとはいえ、老朽化・劣化の可能性は否定できない。
 ・資産のアセットマネージメントの観点より、擁壁の健全性を確認していただくか、出来ない場合は、補修の上、保証してもらいたい。
 ・今回の物件は直接荷重を擁壁にかけていないのは承知しているが、擁壁にかなり近接しており、擁壁に変状があれば、建屋も必ず影響(傾斜、最悪、倒壊)を受けるものと見ている。

以上ですが、この要求は買主としては「要求しすぎ」なのでしょうか?ここまで求めてはいけないものなのでしょうか?以上、アドバイスの程をお願い致します。
 yorozuの感想 他の相談と回答を読んで、なんて親切にお答えいただいているのだろう、と感激しました。もっと早くからこのサイトにたどりついていればよかったと心から思いました。
アドバイザー 
清水 煬二 解説員の清水です。

 土地が3.5M高くなっていて、そこにある擁壁が古いということですね。
 信頼性のない擁壁の場合、その擁壁に荷重を掛けないように家本体を距離をとって離すか、基礎を深くしておくことになります。
 ですが、将来その擁壁をやり直すケースも考えておかなければなりません。
 そのときに家が近過ぎて、擁壁の正しい再工事ができない場合もあります。
 そういう意味では、ご指摘やご心配はもっともなことです。
 幸いにも建売で購入検討中ということですから、契約をする前に気付かれて良かったと思います。
 土地込みの契約金額から考えても、工事の内容から考えても、すでに着工していれば、現状から擁壁のやり直しを業者に求めても、業者は簡単にはOKしないと思いますが、購入される前の立場では、どのように要求しても構わないと思います。
 話し合いや交渉次第ですが、お互いの合意がなされるかどうかは別問題です。
 将来問題が生じたときにどのような対応をしてもらえるのか、どういう方法が可能かも含めて話し合い、理解したうえで進めてください。
 納得がいかなければ、契約前ということですから、購入を見送ることもできるわけですね。
 あとは、家に対する考え方や条件次第ということになります。
山口 雅克 解説員の山口です。

 確かに購入にあたっては心配な事ですね。間知ブロック積擁壁は地山を削って法面を保護するためのもので、土圧を支えるためのモノではありません。元のRC住宅は中央にあったということですから、今回の家よりは擁壁から離れて建てられていたのではないでしょうか。

 今回は3.5mの擁壁の肩から0.5mのところに家がある解釈していいのであれば、お薦めできる建て方ではないと思います。

 IHさんのお願いに対して、売主は自分のできる事をそのまま答えていますのでおかしいものではないと思われます。
 要求としての「擁壁の健全性を確認していただくか、出来ない場合は補修の上保証してもらいたい」との気持ちはわかりますが、売主にしてみると「そこまではできないので買ってもらわなくてもかまいません。」の場合もあります。

 売買は双方の気持ちが一致した時に成立するものですから、そうでない場合は契約が成り立たないだけの話になります。売主が情報を隠して売ろうとしている訳ではありませんので、求めても相手が応えられないのであれば買うのを諦めるしかありません。
 コメンテーター 
久米 能子  コメンテーターの久米と申します。

 業者の対応としては、山口解説委員の言われるとおりだと思います。
 また、間知ブロックと言われているのは、間知石積のことでしょうか…。その場合、(行政によって多少の判断は変わると思いますが)兵庫県の場合は概ね、際立った劣化が無い場合、古いものであっても、その間知石擁壁から特に距離を取って建物を建てるような指導はなされていません。間知石ではなく、例えば丸石をつんだようなものであれば、擁壁下の地盤から30度の角度の範囲以外は崩れる部分とみなし、その範囲以外にまで達するような深い基礎を設置するか、あるいは擁壁からその角度に沿って距離をとって建物を建てるか、という判断となります。間知石は「信頼できる擁壁」と判断される種別のものということです。

 このようなケースの場合、その擁壁に劣化がないかどうかを目視調査し、補修が必要なら補修を行った上で建築する、ということは、設計監理者の建築士の責任において行われるというのが一般的です。従って、今回のようなケースの場合は、理屈では、確認申請書上の設計者が安全と判断したので建築されたということになるでしょうから、筋として施工業者または販売会社が、「保証できない」というのはおかしな話ということになります。

 しかし、現実には各解説委員の述べているように業者は保証を嫌がっているのですから、あとはI.H.さんの考え次第、取引次第でしょう。
 けれども、たとえ業者に擁壁のことまで「保証」してもらったとしても、それで本当にI.H.さんは安心できますか?どんなに立派な保証がついていても、それは事故が起きた後の話です。実際にもしも、ご家族がなくなられるようなことがあって、その後保証してもらっても、なくなられたご家族は戻ってこられません。

 家は簡単に買い換えられないのですから、不安に感じる部分があることはご自分で大切に扱い、やりかかったことだからと無理に進めようとせず、その都度始めに返って考えてみるなどしてみてください。
 事務局から 
  荻原 幸雄  I.Hさんの見識は立派なものだと思います。
資産のアセットマネージメントの観点からも仰せの通りだと思います。
要求も妥当なものばかりです。
私ども建築よろず相談では、日々相談を受付けておりますが、事後相談が余りに多く、逆説的に言えば、家を持つ人々が余りに事前の知識、認識に欠けているものだと認識しております。
I.Hさんのような視点で堂々と販売者に確認することを怠っているように感じます。また、質問しても今回のご相談のように答える業者は100%といっても過言ではありません。
そこに、いろいろな問題が隠されています。

即ち
1)既存の建造物を客観的に提示できる資料が少ないことにあります。
これは役所の許可証の書類だけでなく、設計図面、構造計算書、工事監理の写真、コンクリート強度や検査報告書などがほとんどないといっていい事実があります。
2)これは過去の責任の所在を曖昧にし、資産価値を曖昧にする社会の構図があります。
3)これらが整理されているものは構造物を客観的に評価でき、その履歴が残ることが資産価値を保つことになるのであるが、日本にはそのようなシステムが確立できていない。
4)これは不動産業界の大きな問題であるが、これらの法整備がまったくてきていない。
不動産業界、建設業界の社会に対するリスク回避であり、これが資産としての価値として残らない建築物を量産し、短命で建替えるという状況を助長し、街が脆くも思い出を残さない社会環境へとなってしまいました。
5)これらを回避するにはI.Hさんのように認識を持ち、納得できる情報提供がなければ購入しないという購入者の認識向上が業界の悪習を打ち破るものと思っています。

今回のご相談は妥当な要望であり、また、それに明確に答えられない社会資産であることの現れです。

お考えの通り、建物がどんなに保証されても、地震で擁壁が倒壊したら地面が動きます。地面が動いたら建築はひとたまりもありません。ですから、健全な設計者は擁壁からある程度の距離を置いた配置に建物を設計します。今回の物件は距離が余りに近くであるので慎重な判断が必要です。
相談者お礼状 
 相談者お礼状 この度は、当方からの質問に迅速かつご丁寧にお答えいただき、 本当にありがとうございました。
専門家の方々の知識もさることながら、皆様が親身にお答えくださり、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
実は明日この渦中の物件で不動産仲介業者とアポをとっており、そのアポ前に回答いただけたのも非常に助かりました。今後どのように先方が対応し、当方がどのように決断するかまだ分かりませんが、またその結果等はメールにてご報告させていただきます。
本当にありがとうございました。
まずはお礼まで。
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