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一般社団法人建築よろず相談支援機構

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よろずWEB相談HEADLINE

No. 1079 「音の出せる小さな家」を建てたい!

 相談概要 [氏名] A.M
[相談建物予定地] 東京都内
[職業] 主婦
[年齢] 37
[女性] on
[構造] −
[引渡し年月日] 西暦    年  月  日
[何階建て] 2-3
[延べ面積m2]
[延べ面積坪] 20
[工事請負金額] 2,000
[設計監理料] ?
[様態] 注文建築
 相談内容 [家づくりの相談内容]
東京か神奈川で12-15坪くらいの土地に8-10坪くらいの建物で(いわゆる狭小住宅)
「音の出せる小さな家」を建築家にお願いして建てたいと考えております。
現在は土地探しの段階ですが、「買えそうな土地」と「防音コスト」の間で板ばさみになっており、もしかして私たちのプランそのものが非現実的なのだろうかと言う絶望的な気持ちになりつつあります。
なにか打開策のヒントをいただければと思い、ご連絡いたしました。

防音室以外には寝室と居間兼食堂兼書斎の二部屋と言うシンプルな構造で(あとは本棚を多めにつくりたいのですが)床面積で20坪くらいを考えています。
「音が出せる」という条件がなければ、建物自体はローコストで2000万円くらいでできるのではないかと考えており、土地2,500万、建物2,000万円でプランを立てました。

しかしなかなか土地が見つかりません。

問題は「防音」です。狭小な土地だと住宅密集地帯が多いですし、私たちは打楽器のアンサンブルができる部屋(6畳程度)がほしいのでかなりきちんとした防音が必要です。
どのくらいの音量かといいますと、ある程度交通量のある通りに面している木造家屋の2階角部屋で2重サッシを閉めた状態で演奏して、外部から少し音が聞こえる程度です。
隣家も窓を閉めていれば気にならないと思います。

しかし住宅密集地域だったらこの程度の防音では苦情が出る可能性があると思います。
当初は地下室を考えていましたが、快適な地下室というのはとてもコストが高いのですね。
半地下、もしくは一階をコンクリ壁にし、その上を木造にすれば少しはコストが抑えられるのかな、と思っています。しかし今まで見てきた「安くて小さな土地」は旗竿地や路地・私道に面した物件が多く、コンクリ用の重機が入らないのではないかということも心配です。
ユニット式の家の中にさらに家をつくるみたいな防音セットも6畳だとかなり高くなってしまうようですが、閉塞感があり、本当はあまり気が進みません。
私たちにとっては楽器を演奏できる場所を確保するのが家を建てるそもそもの目的です。

土地の安い田舎に引っ越す、というのは仕事の都合で不可能です。
「音の出せる小さな家」はこの予算では諦めなければならないのでしょうか?

質問は以下です。
(1)小さな土地で音を出す部屋を確保するためにはどんな土地を探すべきでしょうか?
 やはり路地奥や旗竿は避けなければいけないでしょうか?
(2)コンクリ・地下室・ユニット以外にこの値段で有効な防音の方法と言うのはないのでしょうか?
(3)また中古の物件を買ってリフォーム、という可能性も考えていますが、 リフォームで防音と言うのはどの程度まで実現可能なのでしょうか?
 yorozuの感想 専門家のコメントが複数もらえるというのは大変貴重だと思います。
地下室や防音の項目を見せていただき、とても参考になりました。過去の質問も多岐に渡っていて勉強になります。私はまだ土地探しの段階で、いわばスタート地点ですが(それで既に躓いているわけですが)、他の方々の質問から思いもかけなかったようなポイントに気づかされます。
この問題をクリアできて、引き続き家つくり計画を進められるようであれば、おそらくまた何度もこのページに戻ってきて、他の方々の経験を参考にさせていただくことになるだろうと思います。
アドバイザー 
橋本 頼幸 解説委員の橋本です。

音楽をする人にとって防音室というのは「夢」であると同時に切実な問題ですね。
私も個人的に音楽をしますし、その関係上過去に防音室を作ったことが何度かあります。そのような経験からご説明します。

質問(1)どのような土地を探すべきか?
 これは一概には言えません。隣との家の間隔や窓の位置などとの関係で大きく条件が変わります。音を有効に減衰させるには材料よりも「距離」をとることです。
壁に遮音材や防音サッシ・扉などをいくら用いても一般の人の手が届くレベルでは限界があります。

よほど分厚いコンクリートの壁を建てるか何重にも壁を作るかしないと「聞こえない」というレベルにはなりません。扉は当然のことながら窓もとらないといけませんし、防音室となると気密性があがるのでエアコンや換気扇も必需品です。壁や天井、床をいくらきっちりしたところで窓や扉、エアコンのダクトや給排気口など音が漏れやすいところは必ず発生します。そうなると、音を減衰させるためには、その漏れるポイントから近隣の住宅の音の侵入しやすいポイント(窓など)の距離が有効になってきます。

 従って、「こういった土地を探しましょう」というのは非常に難しいです。私は、マンションの一室の防音室を設計したこともありますが、先に述べたような工夫で解決しています。

質問(2)安価で有効な防音の方法と言うのはないのでしょうか?
 防音処理というのは非常におもしろいもので、コストに比例して防音効果が直線的に上がるというものではありません。当然ある程度まではコストに比例した効果が期待できますが、ある一定のコスト以上になるとお金をかけてもかけても効果が上がらないという現象が起きます。それは、先ほど述べたような音が漏れるポイントが必ず発生するからです。

 しかし、一方で安くて防音効果の高い材料はいろいろとあります。また、一般的には音を漏らさないことを基本に「遮音」ばかりに目がいきますが、音楽をする上では室内の「吸音・拡散」も非常に大切な要素です。この条件を満たす安価な材料はいろいろと探せばあります。
 つまり、達成目標によって選択肢が無限にあるということです。ユニットより高性能かつ安価で広い空間を作ることは可能です。それは材料の選定とコストのバランスをよく考えることです。A.Mさんの予算でも十分に実現可能だと考えます。

質問(3)リフォームで防音と言うのはどの程度まで実現可能なのでしょうか?
 私が業務で相談に乗る防音室は、これまで全て既存の改修でした。新築だからできる、リフォームだから無理、ということはほとんどありません。達成目標が明確であればすることは同じです。ただ、新築なら窓の位置は自由にできる、とか、床や天井の遮音はもっと確実に施工できる(施工しやすい)などの条件は変わってくるとは思いますが、それも依頼者と設計者の考え方次第だと思います。

騒音の問題や遮音の問題というのは、実は近所との関係や一般常識的な考え(夜中には音を出さない、など)で解決されることが多いです。
たとえば、仲良くしている隣の人が、ピアノを弾く人だということがわかっていて、生活を妨害しない程度のレベルの音であれば不快にならないものです。A.Mさんの考えておられる打楽器のアンサンブルがどの程度のレベルなのか、夜中も演奏するのか、等がわかりませんので明言はできませんが、ご相談の内容であれば十分に可能であると思います。

最後に注意点として、設計者はしっかり選ぶことが大切です。全てではないでしょうが、ハウスメーカーや一般的な工務店レベルでは、防音室を非常に安易に考え、いわゆる「防音材料」として販売されている材料を適当に貼って終わり、といった何の役にも立たない「防音処理」をしているケースが非常に多く見られます。

また、設計事務所であっても防音について詳しくない人であれば、同じようなミスをします。防音に関する経験や知識が十分にあり、なおかつ「楽器を演奏する人の心理(クレームが出ないかなぁ、音は漏れていないかなぁ、迷惑になっていないかなぁと心配になる)」を理解してしっかりと受け止めてくれる設計者を注意深くお探しになることをお勧めします。
山口 雅克 解説委員の山口です。

 ずっと以前に、私自身が打楽器をやってたことがあるのと、戸建て住宅のピアノ室(26帖、グランドピアノ2台+応接スペース)を設計監理したことがありますので、アドバイスをさしあげます。ちなみに、上記のピアノ室は木造の住宅から廊下で繋がった、壁が鉄筋コンクリートで屋根が鉄骨造金属板葺きの建物です。「我が家をリフォームする前に読むQ&A80」に写真がありますので参考にしてください。

1土地:建蔽率に注意をすれば他は一般的な住宅用の土地と考えて良いでしょう。

2防音方法: 外部への音漏れ対策は隙間を無くすことと、質量の大きいもので囲うことになりま
す。壁はコンクリートのように重たいものが望ましいのですが、コンクリートブロック造として空洞を充填してしまい、仕上げに内外ともモルタル塗はどうでしょうか。

 1階の床は壁から数ミリ離して床下だけで固定するようにしましょう。音による床の振動が土間や地面に伝わり、壁に伝わらないようにするためです。

 2階の床、若しくは1階の天井は木造として遮音シートや石膏ボードの重ね張りを工夫してみましょう。

2階の床を通して2階の壁や窓から逃げる音は少ないと思われます。
 窓は厚めのペアガラスとして必要最小限の大きさとし、はめ殺し窓や片開きなど音漏れの少ない(気密性が高い)ものにしましょう。ドアは一般的な木製のドアに石膏ボードとグラスウールなどを入れ、簡易防音用のハンドルを付けて、枠の廻りの隙間防止を行いましょう。

 換気扇は吸排気型を設置することになります。

 室内の仕上げはモルタル仕上げの内側に吸音性のある材料をぶら下げたり立て掛けたりすることで解決しましょう。室内の音響は設計で決めてしまうのは万全ではありませんので、吸音や反射は使いながら工夫をすることで解決するのがいいでしょう。

3リフォーム:木造の住宅で防音するのでしたら石膏ボードの重ね張りと遮音シートを多用することになりますが、隙間を無くすことと振動の伝達を押さえるのには相当な工夫を要します。
 設計は音響の専門家に依頼するまではありませんが、少しは詳しい人にお願いしてください。
 コメンテーター 
畔上 廣司 コメンテータの畔上です。

技術的な部分を要約しますと・・近隣建物との立地条件は音を有効に減衰させるための「距離」を十分とること。音漏れ対策としては壁内質量を大きくすること。さらに、床・壁仕上材との接点分離を考え、音の振動伝達防止に配慮すること。美しき音楽を奏で聴くには、室内の仕上材料を適切に選定し「吸音・拡散」を考慮することとなりそうですね。したがって、外内部の遮断と隙間埋め程度、仕上げ材の素材間の伝達防止という総合的な建築計画が必要ということでしょうか。

小生も共同住宅の界壁を12.5mmの石膏ボード3重張り+2重張りで設計、床壁の伝達処置を怠ったため効果は今一であったということもありました。以前知る限り、劇場や音楽ホール等に不織布等を束ね利用し、建具がとても分厚くなってしまい四苦八苦したことを思い出しました。山口委員も解説しているとおり、質量の大小で音の減衰に影響を与えることに相違ありません。特に構造体が連続している状態での振動伝達と遮断の関係は難しく相当な工夫が必要になるでしょう。

建物の立地条件・構造や工法・材料の選定やコストとのバランス、防音に対して現実に即した対応など、「買えそうな土地」と「防音コスト」のテーマに親身となって設計アドバイスしてくれる方にめぐり会えたらよいですね。
 事務局から 
  荻原 幸雄 建築は常に最悪の状況を想定します。
近隣に人が窓は閉めるだろうと考えた設計は止めたほうがよいです。

エアコンが嫌いで自然な風を取り込むよう窓を開放する人も多いですし、やはり、自力で好きなだけ楽器を楽しむ。これに最大限の手法を構築すべきだと思います。
遮音、吸音などを組み合わせて、形状なども工夫が必要です。
リフォームは現実的でないので止めたほうがよいでしょう。
予算は誰でも限界がありますが、問題はすっきり割り切れるかです。
よく、予算がないのに夢をどれ一つも捨てられない人がおりますが、現実と予算はかけ離れているものです。

将来にできることは将来に、極論すれば音楽室だけRCとして、あとは付属というような判断が必要です。これは実際にそうすることはないのですが、意識の問題は大きいと思いますよ。夢はいくつもは必要ありません。あなたの人生で最大の喜びの空間が音楽室ならばそれくらいの意気込みで勧めれば、必然と音楽室だけでなく全体に調和が取れてくるものです。
音楽と家は一緒です。ハーモニーが大切です。
相談者お礼状 
 相談者お礼状
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