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一般社団法人建築よろず相談支援機構

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よろずWEB相談HEADLINE

No. 0852 薪と空調設備の併用は?

 相談概要 [氏名] O.M
[居住住所] 長野県松本市
[相談建物予定地] 長野県松本市
[職業] 主婦
[年齢] 37
[女性] on
[構造] 木造(在来工法)
[設計者はどなたに依頼しますか?] 建設会社の建築士
[何階建て] 2
[延べ面積m2]
[延べ面積坪] 45
[工事請負金額] 3000
[設計監理料] 0
[お手持ちの図面は何枚?] 10枚以下
[打ち合わせ何回] 20回以下
[様態] 注文建築
[施工者] 地場中小ハウスメーカー;地域的な中小産業
 相談内容 [家づくりの相談内容]
現在新築の家を設計している最中です。
暖房には薪ストーブを使いたいのですが、主人の帰宅が遅いのと、出張で長期間自宅をあけることがある、さらに高齢になった時の使い勝手を考えると薪ストーブだけの暖房に頼る自信がありません。
そこで、薪ストーブは補助的、趣味的に使おうと考え、建築業者から三菱のエアリ ゾートという灯油燃焼タイプの空調設備による全館暖房と併用すればよいという提案をうけました。

しかし、薪ストーブは気密がとれていないので煙突を通して冷気が入りやすく、ス トーブを焚かずにエアリゾートのみで暖房した時は灯油のコストがかかってしまうと いう問題があるそうなので悩んでいます。床暖房と薪ストーブの併用という案もありましたが、無垢の床材を使いたいということもあって費用的に無理でした。
また、煙突にダンパーを付けておき、エアリゾートのみの暖房の時はダンパーを閉めるという案も出たのですが、あまり効果がないのでは、ということで見送っています。

そこで、薪ストーブを全館暖房と併用する場合、どのようにすれば両方が効率よく使 えるでしょうか。アドバイスをいただきたいと思います。

ちなみに設計中の家は、スキップフロアを取り入れた約45坪の2階建てで、1階は玄関と高齢者の寝室、バス、洗面所、トイレ、中2階とは開放的な階段でつながって います。中2階は21畳程のLDKで2階との間は壁がなく吹抜けとなっています。 ストーブはこの中2階に置きます。家の中は全体的に開放感のある間取りとなってい るため個室ごとの暖房には無理があるのと、建築予定地は長野県松本市、真冬は氷点 下10℃以下という日がたまにあって、私は非常に寒がりなので全館暖房がよいと 思っています。

構造は木造の在来で、中気密高断熱(隙間相当面積5.0cm2/ m2位)、グラスウールを使った内断熱です。 薪ストーブはベルギー、エフェル社製のハーモニーα(最大出力13,860kcal/hr)に しようとしています。どうぞよろしくお願いします。
 yorozuの感想 初めての家づくりなので大変心強いHPだと思います。
アドバイザー 
善養寺 幸子 解説員の善養寺です。

 最近暖炉を嗜好される方が増えてきているようで、暖炉予算なるものを立てておられる施主さんも来られます。バイオマスの一つですので、大いにうまく使っていただきたいと思います。
 今回の全館暖房と併用の件ですが、現実的にみて妥当な選択かとも思いますが、吹抜のあるお宅で空調系の暖房そのものが快適なのでしょうか?
 ランニングコストの件を気にされているようですが、煙突の穴より建物そのものの性能がどうなのかの方が問題が大きいと思います。

 冷気の流入の問題なら確かに煙突に開閉機能を付けるのが良いと思います。効果が判らないから見送ったと言うのは変です。やればやったなりの効果は期待できるでしょう。
 燃料が石油なので、値段的には安いのでそれ程の効率は気にしなくても良いのかとも思いますが、そもそもの建物自体の性能が悪ければ、スキップフロアのワンルームと言える三層吹抜の様な空間でどの様に全館空調を入れるのか疑問ですし、それで効くのでしょうか?エアリゾートと言うシステムは蛸足配管による個別空調ですよね。

 吹抜のある一室の空間に向いている空調システムとは思えませんし、併用で計画換気を入れるとなると中気密の建物を選択する意味も解りませんし、メンテナンスの事も考えなければいけないでしょう。
 折角、気積が一つの空間ならそれに見合った熱の掛け方、設備計画をされた方が効率も良くランニングコストも少なくて済むと思います。
 特に全館空調は高断熱高気密など建物の性能が良いことが前提で、それなりのランニングコストで成り立つものです。中気密と言う言い方、在来、グラスウール、そのキーワードだけ見ると建物の性能がちゃんと作れているのか不安になります。

 自分だったらと考えると、長野のような寒さの厳しい所では建物の性能を充分に作り、吹抜を利用して熱を循環させる湿式の蓄熱床暖房を採用するでしょう。熱源は灯油でもガスでも、ペレットボイラーでも良いでしょう。そして、少し熱の寂しい日は、薪ストーブ(単なる薪ストーブと言うよりは輻射熱の出る暖炉ですね。)を利用する。その方が薪ストーブの設備としての価値もありますしね。多分今回の全館空調よりはランニングコストもイニシャルコストも安いと思います。

(薪ストーブを使うなら、空調一体の計画換気もどうかと思います。) 単に暖かい空気を送り込む方式は、暖かい空気を送り込んだ瞬間に温度差で暖かい空気は上昇してしまい吹抜等がある場合、一機に上に行ってしまい人間のいるところは寒いままです。かなり密閉生の良い建物でもない限り底冷え感がするでしょう。床下換気を取っていれば尚のことのように思います。シーリングファンなど用いて空気を循環させるのは夏は良いですが、冬は人間に風があたると体から気化熱が奪われ、寒さを感じてしまいます。

 視界的な開放感を求めての吹抜のデザインなのだと思いますが、そのデザインを生かすも殺すも、建物の性能と、熱を心得た適材適所への設備計画です。もう少し、性能、設備じっくり検討されることをお奨めします。煙突の穴など、その前段の問題に比べれば大した問題ではありません。

 尚、床暖房にしても安価な大衆的な無垢材は使用できます。床暖房をホットカーペットのようにお考えなら無理ですが、建物の性能を上げ、熱源を床に存在させると考えれば、必ずしも床材は床暖房に密接していなくても良い訳です。そうすれば、無垢床材がダイレクトに熱を受けることがないため、床暖房用など使用しなくても良いことになります。その方が、設置面と非設置面での大きな温度差もないため不快感は少ないです。かなりハイレベルな話になってしまったでしょうか。建築は表面だけなら簡単ですが、中身までちゃんと作ろうとなると、とても難しいです。
今井 優子  解説員の今井です。

 昨年、北海道の旭川で同じように薪ストーブと全室暖房を併用した住宅をつくりました。OMさんのおっしゃっていることには色々と矛盾があり、それぞれ関連性があることなのですが、一つずつ行きます。

 まず、中気密で全室暖房という考え方です。
これは、エネルギーの無駄使いですし、そもそも気密はグラスウールを使った内断熱には壁内結露防止のために絶対的に必要なものです。
壁内結露の対策を何もしないで、「うちは中気密で施工します」などという業者は、構造体の耐久性を放棄しているとしか思えません。
そして問題にするべきは、煙突から入ってくる冷気より5cu/uの隙間です。薪ストーブを使ったときには燃焼空気を室内から引っ張りますから、家中に漫然と存在する隙間から冷気が流入し、ストーブに向いた顔は暖かいが、背中は寒いといった現象が起こります。45坪程度の住宅で気密と断熱をしっかりすれば、薪ストーブ1台で全館暖房を実現することも充分可能ですが、生活スタイルや実用的なことで他の暖房と併用にするという考え方は現実的です。

 では、どのような暖房と併用したらよいかというと。薪ストーブは基本的に輻射暖房です。検討されているエアリゾートは温風暖房です。
暖めるという行為に対して、アプローチの違う方式を併用するという考え方がそもそも間違っていると思います。
1.2階が開放的な間取りで吹抜けもあるという中で、室温を上げるには、相当な風量が必要なはずです。そんなことをすれば、室内に対流が起こり、暖かい空気はどんどん上にのぼり小屋裏の隙間から逃げていき、窓付近のコールドドラフトが冷気流となって足元を襲うという悪循環。寒いといって32℃の強風に設定しても逆に風を感じると体感温度は下がり、やはり寒い。そんな中で薪ストーブを使っても効率が悪いだけです。

薪ストーブと併用するのなら、パネルヒーターやラジエーターを使った温水暖房が適当です。この方式の暖房は人間のいる場所、足元近くで輻射熱を放出していますので、空気を動かしません。そして床や壁を暖めますので、室温自体は19℃前後でも充分暖かく感じられます。床暖房もいいのですが、窓からの冷気を押さえ込むという点ではパネルヒーターに分があります。(もちろん正しい設置場所に設置することが大切ですが)いずれも、ボイラーで温水をつくればよいので、熱源はガス、灯油、電気なんでも良いのです。

 まずは物事を順序だてて、優先順位をつけ決定していくことです。
寒がりで全室暖房が大切なのであれば、高気密は必須条件になります。
幸い、開放的なプランは全室暖房に向いています。高気密にすることで、比較的少ないエネルギーでパネルヒーターによる全室暖房が可能になります。寒さの厳しいときには、薪ストーブを使って視覚的にも楽しめます。ストーブの廻りの壁や床にコンクリートブロックやレンガなどの蓄熱体となる材料をうまく使えば、より効果的に輻射熱を利用できます。ただし、高気密を前提に薪ストーブを入れるなら、外気導入型を選択するべきです。薪ストーブの背面にダクトが付いていて、燃焼に必要な外気を直接導入できるタイプのものです。そうでないと燃焼空気を室内から引っ張ってしまいますので、換気計画が狂ってしまいます。また、キッチンが近い又は一体の部屋にある場合のレンジフードは、同時給排気型かすぐ近くに吸気口をとる必用があります。
そうしないとレンジフード使用時に煙突の煙が室内に逆流することがあります。

 あくまでも薪ストーブはアナログなものです。スイッチポンでいつでも快適というわけにはいきません。うまく燃えてくれなかったり、暑くなりすぎたり・・・。煤やタールの掃除も欠かせません。そんなことも含めて生活のなかの楽しみとして捉えるぐらいが丁度いいかもしれません。 
 コメンテーター 
堀住 勝雄 吹き抜け空間を作るなら、高断熱に徹しないと快適な冬は望めません。
エアリゾートのシステムによる吹き抜けの家も紹介されていますが断熱が完全でない状態で全館の気温を上げる方式では維持費がかなりの負担になると思います。二人の解説のように基本は床暖房かパネルヒーターのような輻射暖房とされるほうがよろしいかと思います。ストーブは外気導入型を探してみて下さい。

窓開口部はどんなにがんばっても断熱上は大きな欠点になりますのでできるだけ開口部は作らないほうがいいのですが、生活上や意匠上ではそうもいきません。このような矛盾を解決すべく日々悩んでいるのが私たち設計者なのです。
安全快適なお住まいが出来ますようお祈りします。
 事務局から 
  荻原 幸雄 今回のように吹き抜けのある、開放的な空間には空調暖房は効率が悪いと思われます。
図面をみてみないと断言はできないのですが、文章から想像する空間ですと、1階の床はとてもつらいくらい寒くなると思われます。1階はバリアフリーの為に親の空間がありますが、年寄りにはきつい環境になるでしょう。2階はとてつもなく息苦しい暑さになると想像されます。
2階が快適な空間温度設計にすると1階はとてつもなく寒い空間になることでしょう。

このような空間の場合は床材や他の予算を削っても輻射暖房にすべきです。削れるものがないなら、残念ですが、薪ストーブは諦めてその予算を床暖房に回すべきです。
相談者お礼状 
 相談者お礼状 解説員の善養寺様、今井様、コメンテーターの堀住様、事務局のおぎわら様、
この度は貴重なお時間を使って私の相談にご回答くださり、誠にありがとうございます。
また、多くの相談がある中から取りあげて下さいましたこと、大変感謝いたしております。

解説委員皆様から懇切丁寧なアドバイスをいただきまして、もう一度家の性能、間取り、暖房の種類、薪ストーブの機種等、検討しなければならないという思いが強く湧いてまいりました。
ここで相談しなければこのままいったと思いますが、寒い家が出来たかもしれないと思うと、ゾッとします。
出来上がってからでは遅いので、この時点で考え直すことができよかったと思います。
『建築よろず相談』所属の皆様のボランティア精神にも感謝申し上げたいと思います。
 その後  
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